GPUプログラミング入門

 表題の本が出版されて1ヶ月が過ぎました.技術書なので部数は少ないけれども,初版は完売しそうな勢いとのことで,嬉しく思っています.
 一番の要因は,NVIDIAが大きく取り上げてくれたからだと思います.私たちはNVIDIAと利害関係にありません.企画も講談社サイエンティフィクが独立に持ち込んできたものであり,こちらの意向で,タイトルも「CUDA」ではなく,「GPU入門」にしてもらいました.最後の章に「CUDA以外のGPUプログラミング」を入れたのも,その意向を示すためでもあります.それにもかかわらず,「刊行によせて」では,NVIDIAから過分な文章を寄稿して頂きました.おそらくは,「それにもかかわらず」ではなく,「利害関係のないユーザーだからこそ」寄稿して頂けた文章だったように思っています.
 ただ,過分な文章にひかれて,上級者の中にも本書を手にとった方がおられるようです.アマゾンのレビューを見ると,申し訳なく思う面もあります.本書はあくまでも入門書です.どのような技術でも,中級者以上の人にとっては自明であっても,初心者には初出の事柄ばかりになります.実は,各著者の第一稿は,完成稿に比べて,中級者以上の視線で記述されている個所が多くありました.それを編者(私)からの要望で,逐一,初心者の視線に修正してもらっています.
 その時の様子を示すメールは次のようなものです.1月初めに編者から分担著者に配信しました.

##(2013年1月6日)##
著者の皆様
cc: 横山様

伊藤です.
お世話になっております.

僭越ながら,皆様にメッセージを書かせて頂きましたので,お暇なときにでも,お目通し下さい.

今日の時点で,修正稿に対する編者(伊藤)からの修正要望は終わりました.皆さんからみれば,些細な質問も多くて嫌な思いをされたかもしれませんが,ご容赦下さい.編者がこれほど口出しすることもないと思いますが,世の中に出るものなので,少しでも良いものに,という責任感からだと思って頂ければ幸いです.世の中に本が出ると,いろいろな人が好き勝手に「書評」を書いたりします.アマゾンのレビュー(つくだけでも良いと思いますが)で,良い評価が書かれれば嬉しいですし,悪い評価(ときにはボロクソに書く人もいます)の場合は落ち込みます.アマゾンに限らず,書名で検索すれば,個人的なブログで,いろいろな人が書評を書いていることがわかります.

私はこれまでに10冊ほどの本(マンガや新書)を出していますので,皆さんよりも文章術には長けていると思っています.そういう面から,失礼を承知の上で,直接文章をいじらせてもらいました.
# 最初に断っておけば良かったですね.すみません.#

良い文章というのは,
「難しいことをやさしく説明する」
ことだと思っています.

普通の文章は,
「難しいことを難しく説明する」
です.

もっともダメなのが,
「やさしいことを難しく説明する」
です.

世の中というのは不思議なもので,もっともダメなはずの「やさしいことを難しく説明した」本を高級だと勘違いする場合も少なくないのは事実ですが,やはり,今回の入門書は「難しいことをやさしく説明する」方針で仕上げたいと思っています.

そのために一番重要なことは,書いている本人が自分の文章を理解しているかどうか,です.文章を他から引用することは構いませんが,書き手が内容を理解しているかどうかで,文章力が変わってきます.権威に乗って書いているのと,自分自身の頭で書いているのでは,伝達力が全く変わってきます.

ただ,皆さんは執筆が本業ではありませんので,こちらから,上記のことがらを要求するつもりはありません.その分,文章に関しては,私の方でサポートさせて頂いているつもりでおります.
私の方の話をさせてもらうのは恐縮ですが,年末年始は,100時間以上,皆さんの文章と向き合いました.腰と右肩が痛くなっています(体重と年齢の関係かもしれませんが…).睡眠時間も短く,ちょっと疲労がたまっている状況です.

少々自慢になってすみませんが,私はこれまで出した本で,印税が100万円を下回ったことがありません.技術書では印税が100万円を超えることは少ないため,執筆の依頼はしばしば来るのですが,労力に見合わないので,すべて断っていました.
今回の入門書では,分担著作になっているので,個人に入る印税は10万円を超えないと思います.そのことは,依頼を受けたときからわかっていたことですが,それでも引き受けたのは,(私も含めて)皆さんの名前を知ってもらうチャンスになると思ったからです.

せっかく世の中に文章が出るわけですから,後悔のないものになればと思っています.

1月10日には予定通りに脱稿するつもりでいますので,最終原稿が間に合わない方は,途中でも構わないので,遅くとも8日までには送って下さい.本の体裁は私の方で整えます.

その後は,横山さんから,さらに改稿の要望が出るのか,そのまま入稿になるのか,わかりませんが,少なくとも,校正段階になれば,また一仕事あると思います.

今後ともどうぞよろしくお願いいたします.
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