「公務員の早期退職はなぜ悪いのか?」(2013年1月27日初稿;1月31日改定稿掲載)

 下村博文文部科学大臣が「教員の駆け込み退職に苦言」というニュースが流れた。これは「パワーハラスメントなんじゃないかな?」と思った。民間の企業で、働けば働くほど給料が減ることが明らかな上で働かせ続けたら、労働基準法で引っかかるように思うのだけれど、違うのだろうか?そもそも、早期に退職すれば報酬が高いという制度は、退職勧奨と同じである。それに従った人が非難されるというのはどういうことなのかなと思う。

 国家公務員の退職金カットの法案が閣議決定されたのは8月のことである。国立大学は「国立大学法人」という何とも分かりにくい名称に変わっている。そこで働く教職員は公務員ではない。しかし、準公務員という扱いで、この減額が実施される。その話が学内に出たのは秋になってからである。3年間で段階的に約500万円が減額されるという。さらに驚いたのが、年度途中の法案が今年度から実施されるということだった。今年度どころか、11月に原案通りに成立した法案は、1月には実施されている。
 あまりに乱暴なやり方に驚いた。あまりにもドライ過ぎやしないか、と。

 11月の法案成立時には、総務省から地方自治体にも同様の減額をするように要請が届いた。各自治体で対応に差が出ているが、例えば、渦中にある埼玉県をはじめ10都県は「駆け込み」で条例を改正して、2月からの減額となった。3月末まで働くと、退職金が100万円以上も減る。寝耳に水だった人も多いのではないだろうか。さらにドライである。
 ところが、少しでもリカバーしようと早期退職を願い出た人に対しては、精神論で引きとめようとする。これは、あまりにもウェット過ぎて、再び驚いた。

 8月の閣議決定では、国家公務員の早期退職を拡充していく方針も決められている。経費削減のためである。そして今回は、主として地方公務員であるが、早期退職を非難する。もちろん、これも経費削減のためである。一方で早期退職を勧告し、一方で引き留め策を取る。どちらも組織優先で、個々人のフォローはどこにもない。
 大臣や知事は、立場上、世間に目が向くのは仕方がないのかもしれないけれども、「自己の職責や使命感を持って、ぜひ職務を全うしてほしい」と精神論や叱責を言い放つだけではなく、退職者の身になった説明も加えて頂きたいと思う。高額所得者ならともかく、庶民レベルでは看過できない額である。
文字通り「全うしてほしい」ということが重要ならば、2月に退職した職員には3月は無給で働きに来てもらえばよいだけのように思うが、いかがだろうか。「引き継ぎ」が退職後にずれ込むことはよくある話である。大臣や知事等の談話を聞くと、「退職者には余計な経費を一切支払いたくない」という趣旨だけが透けて見えて、やりきれない思いがする。

 国家、地方を問わず、公務員叩きの風潮がずっと続いている。短期間ならともかく、これだけ長く続いているのは、なぜなのか、実のところ、私にはよくわからない。国を支えるためには、優秀な人材が公務員になってもらいたいと思うことは、それほど不自然ではないだろう。しかも、公務員採用は試験制度であり、誰でも受験できるし、受験料も無料である。試験や資格制度のある職種は、一般的に、給与水準は高い。それも不思議には思われないが、どうだろうか。

 追記させて頂ければ、国立大学の教員は、上記よりもさらに厳しい状況にある。今年度から2年間、国家公務員の給与は7.8パーセント、カットされているが、国立大学でも同様に実施されているからである。これは平均値で、年齢が高いほど大きく、退職間際の人は10パーセント程度になる。これだけで年間100万円程度は減額されている。そこに加えて退職金が150万円ほどカットされる。昨年度に定年退職した人に比べて、今年度定年退職する人は、最終年度に受け取る額が200〜300万円も少ないことになる。

 満期近くまで職責を全うした人には、少しでも良い待遇で退職してもらいたいと思う。退職を前に精神的重圧をかけられている状況は、お気の毒としか言いようがない。