「日本のスパコンがゴードンベル賞を独占した意味 2011年11月22日」の初稿

スパコン世界一のゴードンベル賞 (2011年11月19日脱稿)

 2011年は、6月期に続き、11月期も「京」スパコンランキング「TOP500」(http://www.top500.org/lists/2011/11)で1位に輝いた。1秒間に1京回の演算性能(10ペタフロップス)を記録して、文字通り「京速」コンピュータを実現した。
 6月期において1位になったとき、私は1位のブランド力を強化するために、性能評価のプログラムではなく、意味のある計算を急いで実行するべきだと論評した。それは実行され、見事な結果を出した。
 高速計算のオリンピックのような存在として、ゴードンベル賞というものがある。その年の最高性能を示した数値シミュレーションに贈られるもので、京を用いた研究成果が受賞した。
 京が受賞した「最高性能賞」の他にもう一つ「特別賞」という部門があり、こちらは「TOP500」で5位にランキングされた東工大の「TSUBAME」による数値シミュレーションが受賞した。日本のスパコンが賞を独占して、近年にない快挙になっている。

 世界一のスパコンが世界最高の数値計算を行うことは当然のようにも思えるが、実際はそうなっていない。現在のスパコンは演算プロセッサの並列度が高くなり過ぎて、性能を引き出すことが容易ではなくなっているからである。歴代ナンバー1スパコンの中には、使いこなしただけで学術論文になるといわれたものもある。
 11月期のTOP500リストを見ると、京には70万を超える演算素子が組み込まれていることがわかる。これを無駄なく全て動作させたときが理論ピーク性能である。ハードの性能が高くても、それを使いこなせなければ無用の長物である。したがって、コンピュータの性能というのは、ハードとソフトを合わせた能力で決まるといってよい。「『京』による100,000原子シリコン・ナノワイヤの電子状態の第一原理計算」という実際に使われる数値シミュレーションで3ペタフロップスという世界最高の実効速度を叩き出した意義は大きい。
 「京」に隠れた格好になってしまったが、「TSUBAME」に関しては、満を持しての受賞だろう。「TSUBAME」は、コンスタントにスパコンランキングの上位を保ってきているが、どちらかというと教育用途が目立つシステムだった。私も数年前に一つ前のバージョンを使わせて頂いたことがある。そのとき、窓口になってくれた東工大の先生が嘆くようにつぶやいていた言葉を思い出す。
 「教育用に大勢に切り分けしていてはダメだ。ある期間を区切って、一つのテーマで全システムを使わせるようなことも考えないと世界的な研究成果は出せない…」
 東工大は、今年から「グランドチャレンジ制度」というものを実施し、占有して研究できるようにしたようだ。そしてすぐに結果を出している。「TSUBAME 2.0スパコンにおける樹枝状凝固成長のフェーズフィールド法を用いたペタスケール・シミュレーション」というタイトルで、2ペタフロップスの実効速度を出して特別賞を獲得した。

 ハードとソフトの総合分野という意味では、予算をつぎ込む以上に、人を育てることが重要である。次代を担う人材は育っているだろうか。育てる環境は整備されているだろうか。どうも見えにくい。
 6月期の論評に使った表に11月期を追加して再掲した。「京」が1位を獲得しながらも、日本企業(富士通、日立、NEC)のスパコンはさらに数を減らしている。実は、「京」の開発を担った富士通製が7から4になり、それがそのまま3つの減数になっている。
 多額の国税を投入して獲得した世界一のブランド力をどう活かしていくのか、注視したい。