「2位になった「京」の本当の評価」(2012年6月22日初稿;26日改定稿掲載)

 2012年6月期のスパコンランキング「TOP500」が発表になった。米国IBMのSequoiaが1位になり、日本の「京」が2位に転落したと報じられた。転落というよりも、今も2位にランクインしていることは、称賛されるべきことである。
 ただし、「京」の真価が問われるのは、本格稼働が始まる9月からである。どんな成果を生み出すのか、そこで評価されなければならない。

 スパコンがどれくらい使われているかの指標として、歴代1位のスパコン名がタイトルに入った文献数を調べてみた。Google Scalarを使って検索した結果が表1である。複数の名前で呼ばれているコンピューターについては、検索語ごとのヒット件数をいくつか調べた。ただし、スパコンの名称以外でも使われている検索語(Paragon, Roadrunner, Jaguar)においては、関係のない文献数が多く含まれているため、参考程度に()付きで示した。

 スパコンの使命はそれぞれなので、たとえ世界最高速のコンピューターといえども、成果が表に出にくいものもあるだろう。特に軍事用途ではあり得る話である。しかし、日本のスパコンは民生用、特に科学技術を促進する使命を持っている。しかも、多額の税金が投入されている。そういうことを考えると、例えば、「京による○○の数値解析」のように、コンピューター名がタイトルに入っている成果が多数出ることを願いたい。
 表1をご覧になっていかがだろうか。正直なところ、私は、文献の数が意外に…というか、大変少なく感じた。「量よりも質」という見方もあるだろう。そこで、各コンピューター名がタイトルに入った論文で、もっとも引用件数の多いものも示した。
 別格なのが、Thinking Machines社のコネクションマシンCM-5/1024で、書籍ではあるが(一般に、学術論文よりも書籍の方が被引用数は高くなる)、2,569回引用された文献がある。これは、コネクションマシンが超並列コンピューターの草分け的存在で、多くの関心を集めたからである。
 もう一点、注目すべきは、地球シミュレータの健闘である。英文で400編、和文で200編を超える成果発表がなされている。地球シミュレータの次代を担っているのが、IBMスーパーコンピューターシリーズBlue Geneである。今期1位のSequoiaはその最上位に位置するBlueGene/Qシリーズで構成されている。今期のTOP500において、IBMのシステムは213を数え、占有率は、実に40%を超えている。そのうちの31がBlue Geneシリーズのシステムである。ところが、タイトルにBlue Geneの入った文献は、総数でも地球シミュレータに届かない388編でしかない。

 表1の評価は一例に過ぎず、しかも数値を見ると、おそらく適した指標にはなっていない可能性が高い。もしこれを指標の一つとして扱う価値があるとしたら、それは別の意味で興味深く、現在におけるスパコンの存在意義を問うことになる。
 指標の是非については置いておくにしても、科学技術というものは、成果を持って評価とすべきであることは間違いないだろう。そういう見識をスパコン業界に示すためにも、ぜひ、「京」を明示した成果を世界に向けて発信して頂きたい。
 昨今の日本の科学行政は金(予算)を獲得した人が偉いという風潮が強い。「京」でいえば、科学は1位でなくてはダメという理論を押し通して、1,000億円を押さえた人が持ち上げられる。しかし、科学の世界では成果こそがすべてである。ツール(スパコン)の1位、2位を競うよりも、それらを使いこなして、有用な成果を上げることこそが本質である。成果を上げるのが次代を担う研究者であれば、なお素晴らしい。研究者育成に予算が活用されたことが示されるからである。
 「京」の本格稼働後に注目したい。