「One Voice」と「No Voice」

 WEBRONZAの記事を書いているうちに、牧野さん以外にも、明らかに「SPEEDI」の非公開に振り回された人がいることに思い当った。
 牧野さんが文部科学省にメールを送ったのと同じ頃、日本気象学会では不可解な通達が流れた。3月18日付の学会理事長から会員に宛てられた「北地方太平洋沖地震に関して日本気象学会理事長から会員へのメッセージ」である。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/others/News/message_110318.pdf

 内容を要約すれば、「放射性物質の拡散については国が情報を提供するので、個々人では発表しないように」という注意喚起であった。放射性物質の拡散予測においては、気象学会は中心となるべき専門家集団であったはすである。
 研究者の自粛を明文化したものであり、私は個人的に大きな憤りを感じた。「理性の資質」を執筆しようと決意した要因の一つにもなっている。

 ところが、学会理事長がSPEEDIの稼働状況を把握していたとすれば、このメッセージの読み方も変わってくる。防災に関わる情報の公表は、信用できる情報に一元化するべきだという原則(One Voiceの原則)があるからである。「One Voiceの原則」については、東工大の井田さん(教授・地球惑星科学)に教えてもらった。
 3月18日のメッセージを注意深く読み直してみれば、「文部科学省等が信頼できる予測システムを整備しており、その予測に基づいて適切な防災情報が提供されることになっています」と明記されている。これがSPEEDIをさしていることは間違いない。
 日本気象学会にとって誤算だったのは、提供されることになっていたはずの情報が文部科学省から発信されなかったことである。井田さんの言葉を借りれば、「One Voice」が「No Voice」になった。そのため、学会メッセージに批判が殺到した。
 振り返ってみれば、日本気象学会も、国の指揮系統に翻弄され続けていたようにも感じられる。

(補足)
 ただし、日本気象学会のメッセージに引き続き、学会レベルで様々なメッセージが発信される。納得できるものもあるが、首をかしげるものも少なくない。それらは、別途検証していく必要があると思っている。