ホログラフィの書籍紹介

 寺田寅彦の講演会に、思いがけない方が聴きに来られていました。ホログラフィアートの第一人者である石井勢津子先生です。「面白かった」と感想を伝えに来て頂き、大変嬉しく思いました。ありがとうございました。
http://www.img.cs.titech.ac.jp/~setsuko/

ホログラフィに関しては、昨年、貴重な本が出版されましたので、ご紹介します。

http://opluse.shop-pro.jp/?pid=24903999

 出版に合わせて、依頼されて、下記のような書評を書きました。参考にして頂ければ幸いです。

  • -

「日本のホログラフィーの発展 −究極の立体像を目指して−」
 日本のホログラフィーの歴史編集委員会 編

 評者 伊藤智義・千葉大学大学院教授

 ホログラフィーは1948年に発明され,究極の3次元映像技術といわれている。1960年にはレーザーが発明されて,飛躍的な発展の契機となった。日本のホログラフィーの歴史は,その1960年代に始まっている。それから約半世紀が過ぎようとしている今,この書籍が刊行されたことは非常に大きな意義を持っている。第一線を退かれようとしている「第一世代」のホログラフィー研究者自らが残した貴重な一次資料となっているからである。
 本書の特徴は「人」を中心に記述されていることである。科学技術は,「技術」を中心に記述されると,途端に無味乾燥に思えてしまう。それが,「人」に焦点を当てることで,記述がいきいきと動き出す。パイオニアとなった方々が,どういう経緯でホログラフィーに魅せられていったのかが克明に描かれていて,興味深く,また,参考になる点も多い。
 本書は大まかに2部構成になっている。1部に相当する部分は,岩田氏を委員長とする8名の編集委員を中心に記述された黎明期から今後に至るまでの通史である。2部に相当するのは,三田村氏の「ホロ・インタビュー」である。26名(最後はご自身)の生の声を読み取ることが可能になっている。
 人に焦点を当てているといっても,技術解説をないがしろにしているわけではない。それは参考文献の充実に表れている。読者は,本書でホログラフィー技術の変遷を概観できるとともに,その時代におけるエポックメーキングをさらに深く知りたいと思えば,豊富に提示された参考文献を手がかりにすることが可能になっている。
 もう一つの特徴は,「アート」の記述をしっかり行っているところである。第6章の「日本のホログラフィー・アートの展開」においては,「1978年,日本のホログラフィー・アートは一気に花開く」と高らかに記述されて,当時の高揚感が伝わってくる。
 本書でホログラフィーの歴史を通読してみると,不思議な感覚を覚える。発明から半世紀以上が経ち,芸術にまで展開しているのに,技術的な終着点が未だに見えないほど先にあることである。第5章の「新たな研究開発と将来への取り組み(1990年以降)」には,今後の技術展開が示唆されている。私がホログラフィーの研究に取り組み始めたのは1992年なので,この章の時期に当たる。1990年に電子ホログラフィーによる3次元テレビのデモが行われ,研究が活性化した。しかし,検討が進むにつれ,ホログラフィーによる究極の3次元テレビの実用化には,まだ20〜30年を要するともいわれている。
 本書は,ホログラフィー研究を切り開いてきたパイオニアの方々の記念碑的な作品である。それと同時に,今後の研究を次の世代に受け継いでもらいたいという意志も感じられる。本書の中心となったのは,日本光学会ホログラフィック・ディスプレイ研究会(HODIC)である。「まえがき」にある現会長の吉川氏の言葉が象徴的である。  「本書名を日本のホログラフィーの『歴史』ではなく『発展』とした」理由として,「ホログラフィーが決して過去の技術ではなく現在も活発に研究開発が行われている」ことをあげている。
 現在ホログラフィーの研究に従事している人,将来の技術として興味を持っている人には,ぜひ一読をおすすめしたい一冊である。