コマの思い出:その2

 ヤングジャンプ第11回青年漫画大賞原作部門において、「コマの思い出」で受賞を果たしたとき、私は思った。
「これで人生が変わる!」

 ほどなくして、ヤングジャンプ編集部から「一度、遊びに来ないか」という電話を受けた。もちろん、二つ返事で約束を取り付けた。「デビュー」の文字が頭を駆け巡り、心が躍った。
 集英社に行ったのは、その日が初めてだった。担当の編集者が出てきて、近くの喫茶店で話をすることとなった。
 このときの応募総数が1,080編で、最終選考に残ったのが5編、そして準入選1編、佳作が1編だった。編集者は審査員の採点表を見せてくれた。単純に合計すると、佳作だった「コマの思い出」が1番だったことを教えてくれた。私の心音は、ますます高鳴っていった。

 ところがである。
 どうもここから会話の調子がおかしくなる。
 編集者は、高得点だったにもかかわらず、なぜ、私の作品が逆転で2番になってしまったのかを延々と語り始めた。「よくまとまっていて完成度が高い」けれども「こじんまりしている」。「感動的ではある」けれども「スケールが小さい」。…などなど。

 1時間くらい話をしてもらった気がするが、最後の方は、あまりよく覚えていない。
 あの日は雨が降っていて、意気消沈して帰宅したことは、忘れられない記憶となっている。

 その後、集英社から連絡が来ることはなかった。
 調べてみると、「漫画部門」からは連載漫画家が続々とデビューしていたが、「原作部門」からデビューした原作者は一人もいなかった。
 実際、「コマの思い出」が漫画化されることはなかった。

 賞金の15万円は確かに振り込まれた。
 ただ、それだけだった。
 期待が大きかっただけに、落胆も大きかった。
 1984年、22歳。6年間の苦闘が実を結んだ瞬間に、突然、傷心の日々が訪れた。そんな感じだった。

 それでも月日は容赦なく過ぎていく。
 1985年春、「第12回青年漫画大賞」の締切りが近づいてくる。

 そして、どういうわけか、私はまた、ペンを握りしめたのである。