「シャトルの後は宇宙エレベーターを (2011/08/25)」の初稿

スペースシャトル後の宇宙開発の夢を探る (2011年8月20日脱稿)

 7月21日、最後のスペースシャトルが無事に帰還し、30年に及ぶシャトル計画が幕を下ろした。月に人類を送ったアポロ計画後の米国宇宙開発の主役となり、ハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、多くの衛星を打ち上げ、国際宇宙ステーションの建設にも大きく貢献した。
一方で、冷戦終結後、ロケットに比べて割高なことが表面化し、国際宇宙ステーションの完成と同時に計画を終了することが決められていた。

少年少女の夢舞台

 理系離れがさけばれて久しいが、第一生命のアンケート調査「大人になったらなりたいものベスト3」(http://event.dai-ichi-life.co.jp/tips/minisaku/otona.html)をみると、潜在的な理系志望は少なくない。男子では、毎年2枠は「野球選手」と「サッカー選手」で固定されているが、残りの1枠は「学者・博士」となっている年が多い。

 様々な科学技術の中でも、宇宙開発の華やかさは別格である。
 1961年、旧ソ連は人類史上初めての有人宇宙飛行を成功させた。ガガーリンの「地球は青かった」という言葉は世界中をかけめぐった。
 1969年に人類史上初めて月面に降り立ったアームストロング船長の「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という言葉も有名である。
 スペースシャトルは、135回の有人飛行で、日本人7人を含む16カ国355人を宇宙に運び、「宇宙飛行士」という職業を確立した。
 冷戦後のエポックメーキングは国際宇宙ステーションである。米国とロシアを中心に15カ国が参加するという地球規模のプロジェクトが実現した。日本の実験棟「きぼう」では、6月10日から長期滞在中の古川聡宇宙飛行士によって、今まさに実験が行われており、日々、その様子が伝えられている。

宇宙エレベーター

 スペースシャトルが退役し、国際宇宙ステーションが完成した今、宇宙開発は成熟期を迎えているようにも見える。それでは、今後の動向はどうなっていくのか。
 「次世代スペースシャトル」や「有人火星飛行」など、宇宙開発には今後も様々な「夢」が用意されている。しかし、これらは今までの技術の延長線上にあり、次代を担う少年少女の想像力をかきたてるのには少々弱い気がする。
 個人的には「宇宙エレベーター」(http://jsea.jp/How-to-know-SE)に期待している。静止衛星軌道上の宇宙ステーションと地上を結ぶエレベーターで、もし完成すれば、誰もが安価に宇宙空間に行ける可能性を持っている。
 理論的には可能であるが技術的には困難であり、実現には数十年から100年を要するともいわれている。もっとも困難な問題は、地上から3,600キロという静止衛星軌道までの長さである。エレベーターは自重で切れてしまう。
 ところが、1991年、NECの飯島博士(当時)によってカーボンナノチューブが発見され、状況が変化した。強度に優れた素材であり、宇宙エレベーターに必要な強度を上回る可能性が出てきたからである。

 日本の技術が宇宙開発の主役になる日が来るかもしれない。

 2008年には宇宙エレベーター協会(http://jsea.jp/)が設立され、翌年からは、仮想の宇宙エレベーターとして、上空のバルーンから地上にテープを降ろし、地上から自走していくマシンの競技会もが行われている。
 第1回大会のドキュメンタリー(http://www.wowow.co.jp/pg/detail/066296001/)を観たが、確かに実用化には遠く及ばない感じを受けた。ただし、ロケット開発初期の「宇宙旅行協会」をほうふつとさせる明るい萌芽があふれていた。
 宇宙旅行協会は1927年にドイツで設立されたロケット愛好家の団体である。液体燃料の燃焼実験に成功し、宇宙空間には程遠いものの、1,000メートルを超える打ち上げにも成功している。
 そこには、学生だったフォン・ブラウンもいた。月旅行など、夢物語にしか思われていなかった当時(当然である)、一途に月をめざした男である。第2次世界大戦中はドイツ陸軍に身を置いてロケットの原型となるミサイルの開発に成功し、敗戦後は米国で東西冷戦を利用して、アポロ計画の責任者として人類を月に送ることを実現している。夢を抱いてから40年足らずの出来事であり、戦争が科学技術を加速させた典型例の一つでもある。

 宇宙エレベーターはロケット開発とは逆に、平和時でなければ実現し得ない技術である。地上及び空間の利用には国際協力が不可欠だろうし、戦時においては、かっこうの標的になってしまう。
 そういう意味では、純粋に科学技術だけでなく、様々な課題を抱えている。だからこそ、宇宙エレベーターの研究は意義深い。

夢のある長期展望を

 日本の宇宙開発を担う宇宙航空開発研究機構JAXAのウェブサイト(http://www.jaxa.jp/townmeeting/29/opinion2.html)に、小さいながらも、宇宙エレベーター軌道エレベーター)に関するコメントが載っている。
 「5年単位の計画でもって事業を進めていかないといけない縛り」があり、「JAXAの中では本格的に検討している人がいない」と述べられた後、「もう少しロングスパンのプランができればいいかな」という感想が付け加えられている。
 今後の動向に注目したい。