情報処理学会コンピュータ将棋プロジェクトの終了宣言

 「永遠の一手」のネームができあがった頃、情報処理学会が「コンピュータ将棋プロジェクトの終了宣言」を発表した。私も情報処理学会の会員である。連載も終了したので、コメントしたい。
http://www.ipsj.or.jp/50anv/shogi/20151011.html

 研究者からみれば、この判断は至極当然である。「名人を破ることをめざす」ことと「実際に名人を破る」ことには大きな差がある。
 近年、人を扱う研究には大きな制約がかけられている。各大学には、ふつう、医学系のみならず、教育学、理工学系などにも生命倫理委員会が設置されている。人に関与する研究は、生命倫理委員会の許可を得る必要があり、許可がなければ、研究成果は論文として受け付けてもらうこともできない。
 個人情報は厳正に管理され、対象者や協力者は匿名化される。当たり前のことではあるが、「研究」という名目で「個人の尊厳」が損なわれるようなことがあってはならない。

 将棋は文化である。負けたときは、いくら悔しくても「負けました」という意思表示をする。それはコンピュータ将棋に対しても同じだった。NHK特集で全国放映もされた。
 機械に対して人間が「負けました」と頭を下げたとき、それは「研究」とはかけ離れた。情報処理学会がプロジェクトを終了したのは当然である。

 一番の要因は、もちろん、コンピュータ将棋が強くなったためである。

 コンピュータ優位に推移した現在、これからもプロ棋士とコンピュータが公開対局を続けていくならば、人に対する配慮は不可欠である。例えば、「負けました」と発声する代わりに「END」ボタンを押す。すかさず主催者が「お疲れさまでした」というねぎらいの言葉をかける。負けた方も悪びれずに「いやー、やられちゃいましたねー。どこがポイントだったかなあ?」という感じで感想戦をワイワイ行う。服装もラフな普段着がいいですね。なるべく悲壮感のない感じで。どうでしょうか。